エッセイ

家の中で魚が泳いでいる。

りゅーまち

家の中で魚が泳いでいる。

この一文だけ見るとなんだか不思議なお話の世界みたいに聞こえるけど現実の話。

6歳の娘が「何かかいたい」と言うから「この前おもちゃ買ったじゃん」と言うと、「ちがう!ジュンテンドーで、虫とか…」と言うので「あー、飼いたいのね」と理解した。

「飼いたいから、買いたいのね..ふふふ」と、6歳児には理解してもらえないであろう日本語のおもしろみを一人で噛みしめた。

それなら「カブト虫にしよう」「幼虫から育てよう」と作戦を立てると、20年ぶりぐらいに訪れるかもしれないカブト虫との生活に俄然おじさん(32)のテンションも上がってきた。

早速2人でホームセンターに行ってカブト虫を探した。「昔は林の中で探したもんだけど最近の子はこんなふうにホームセンターで探すのがスタンダードなのだろうな..」と我ながら昭和生まれっぽい思考を巡らせた。

見つからなかった。

季節違うっけ?合ってるよな?と思いながら今度は店員さんを探す。店員さんはすぐに見つかった。

「あの…カブト虫の幼虫か成虫っていますか?」と尋ねると「すみません、、コロナの影響で入荷が6月ぐらいになりそうなんです」と、申し訳なさそうに答えてくださった。

「あぁ、そうなんですね〜残念..」と答えながら、カブト虫も「入荷」って言うのか、野菜みたいだなとか、カブト虫業界(?)もコロナの影響受けるのだなとか、知らない業界のことについてひとつ詳しくなった気がした。

「残念だったなぁ。また6月になったら来よっか」と声をかけると「違うのかいたい」とまだ諦めていない様子だった。

たしかに「カブト虫にしよう」というのは僕が勝手に言いだしたことで、この子にカブト虫への執着はなかったのだと気づいた。

「何がいいかな〜」とまた2人で生きもののコーナーに引き返した。

悩んだ結果、「パパはこおろぎとめだか、どっちがいい?」という二択を迫られた。

「こおろぎとめだかかー」と言いながらこおろぎが大量に詰め込まれた虫かごを覗きこむと「これは…気持ち悪い」という感想しか出てこなかった。

子供のころはこおろぎのこと好きで、公園でよく捕まえていたんだけど今見ると「小さいゴキブリみたいだ」と感じてしまった。飼いたくない。ごめんコオロギ。

「めだかにしよう」と6歳に提案して「いいよ!」と許可をいただいた。

「めだかなら2年前にも飼ったことがあるから大丈夫そう…」というのも判断の理由だった。歳を取るにつれてこうして「新しいこと」「未知のこと」よりも「実績がある」ことの方に流れてしまうのが悲しい。

しかし前回は小さな金魚鉢の中で飼っていたせいなのか、夏の暑さのせいなのか死なせてしまった。

今回は金魚鉢より少し大きめでろ過装置も付いている四角い水槽にしよう。飼うのも3匹だけにしよう。と万全の体制で臨むことにした。

失敗を恐れてしまうのも大人だが、失敗から学び改善をできるのもまた大人なのだ。

そんなわけでこの日から、わが家で小さな3匹が泳いでいる。

家の中で魚が泳いでいるというのはなんだか不思議な感じがするし、ろ過装置から流れる水の音や、スイスイと泳ぐ3匹の様子が涼しげで、少し贅沢な感じがして良い。

娘とえさをやっているときに「名前をつけよう」という話になり、3匹とも娘に決めてもらった。

1番大きいのが「コータロー」で、真ん中が「めだかさん」(花子さんみたいな発音)で、1番小さいのが「ちび助」。らしい。由来が全くわからないし、小学校の理科の時間に習ったオスとメスの見分け方も忘れたから性別もわからないし、相対的な大きさだけで3匹を見分けているのもどうかと思うけど、なかなかシュールな名前が気に入っている。

気づかぬうちにちび助とめだかさんが入れ替わっていたり、ちび助がコータローの座に君臨していたりする日が来るかもしれない。それだと名前というより役職みたいだ。まぁいいか。

この前娘と2人でめだか達を見ていると「パパは一人でおうちにいるときもめだか見ることある?」と聞かれた。

「めっちゃ見るよ。いつもお昼ごはん食べた後とか、かわいいからじーっと見とる。」

犬や猫をかわいいと思うことはたくさんあったけど魚をここまでかわいいと感じるようになるとは思わなかった。

2年前に飼っていたときはここまでの感情は湧いてこなかったのに不思議だ。名前を付けるという行為が重要なのかもしれない。

在宅ワークになってから日中はひとりぼっちだったけど仲間が3匹も増えてうれしい。

そういうわけで、家の中で魚が泳いでいる。

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りゅーまち